ビンラディン殺害

 5月2日夕刊にビンラディン容疑者が、パキスタンで米軍によって殺害された記事が掲載された。テレビでは、アメリカ国民が狂喜する姿が映し出された。この狂喜するアメリカ国民の姿を見て私は違和感を感じた。サダム・フセインが処刑されたときもそうである。

 私は、別にビンラディンやサダム・フセインを擁護するわけではない。オバマ大統領の声明に「正義はなされた」とあるが、本当にそうなのか、と言いたいのである。2001年の9.11テロでは、4機の旅客機がハイジャックされ、世界貿易センタービルや国防総省が攻撃され、約3000人の犠牲者が出た。これに対して、米国はアフガニスタンのタリバーン政権がビンラディン容疑者をかくまっているとして、アフガニスタンを攻撃した。この攻撃では、何の罪も無い民間人が米軍によって多数殺された。米軍が結婚式参列者を爆撃した事件もあり、長沼昭の再質問趣意書を以下に抜粋する。


平成十四年七月三十一日提出
質問第一八七号
アフガニスタンにおける結婚式参列者への米軍の誤爆に対する日本の態度に関する再質問主意書
                                                                 提出者  長妻 昭

 前回、アフガニスタンにおける結婚式参列者への米軍の誤爆に対する日本の態度に関して質問させて頂いた。平成十四年七月二十六日に頂いたその答弁書に は、「政府としては、平成十四年七月一日にアフガニスタン南部のウルズガン州において、アメリカ合衆国軍隊が爆撃を行ったことについては承知しているが、 同月二十二日現在、死傷者数、爆撃の背景等の詳細につき、アフガニスタンの移行政権及び米国政府が事実関係を調査中であると承知しており、調査結果が出て いない現段階においては、死傷者数、誤爆か否か等について政府として答弁することは困難であり、米国政府に対し何らかの「意思表明」を行うこともしていな い。」とある。
 そこで以下お尋ねする。

一 調査結果はいつ出ると承知しているのか。
二 米国に対して、本件が誤爆か否か、問い合わせたことはあるのか。
 あるとすれば、問い合わせた月日と問い合わせ元の日本側の役職と、問い合わせ先の米国側の役職と問い合わせた内容をお示し願いたい。
三 問い合わせもしていないとすれば、なぜか。
四 テロ特措法で、米軍支援をしている日本の責任をまっとうするためにも、日本は本件の独自調査をする予定はあるか。
五 テロ特措法成立以降、米軍のアフガニスタン等での行動について日本は意思表示をしたことはあるか。あれば、時系列的に内容と意思表示を示した相手をお示し願いたい。
六 本件以外で、テロ特措法成立以降、米軍によるアフガニスタン等への誤爆及び非戦闘員への攻撃の事案を把握しているか。把握していれば、時系列的に内容と攻撃場所、死傷者人数、日本がどのような意思表示を誰にしたのか、お示し願いたい。
七 テロ特措法に基づき支援をしている米軍が、どのような行動をした時に、日本は意思表示をするのか。いかなる米軍の行動に関しても日本は意思表示をしないのか。


 これは米軍による一般民間人殺害の一例に過ぎない。米国は“テロとの戦い”を口実に平気で一般民間人を殺したその数は、9.11テロの犠牲者数をはるかに越えるであろう

 オバマ政権になってからは、アメリカ軍の犠牲を減らすために無人攻撃機を使用する頻度が多くなり、民間の犠牲者比率がさらに上がっているという。 

 9.11テロに対する仕返しをすることが、正義であるなら、アフガニスタンの犠牲者の正義は、米軍に仕返しすることが正義となろう。9.11テロを指示したとするビンラディンを殺すことが正義だとしたら、アフガニスタンの犠牲者の正義は、米軍とそのトップである大統領を殺害することが正義となろう。

 そもそも米国は、言い掛りをつけて世界中でやりたいことをする無法者ではないか。ブッシュ政権は、2003年3月に英国と一緒になって、イラクが大量破壊兵器を持ち、フセイン大統領がアルカイダを支援していると、有りもしないことを口実にして戦争を仕掛けた。国連安全保障理事会の直接の決議も得ないまま。そして、イラクが大量破壊兵器を持つことも、アルカイダとフセインとの協力関係も証明されなかった。要するにアメリカは、ありもしない難癖をつけてイラクに一方的に開戦したのである。北朝鮮とどこが違うのかどこに正義があるのか。アメリカは、単にイラクの石油を支配したいだけだったのではないか。

 ビンラディンは、アフガニスタンに侵攻したソ連に対抗するためにアルカイダを創設した。アメリカは、アルカイダの前身を支援したのではないか。CIAがイスラム義勇兵を訓練し、武装化させ、戦う戦士に仕上げたのではないのか。ビンラディンは、ある意味で愛国者である。イスラムの愛国者である。世界の米国支配を打ち破ろうとした愛国者ではないのか。

 今回の作戦を8日朝日新聞の記事で再現すると、米海軍特殊部隊約80人が邸宅付近にヘリコプターで飛来。敷地の南側に建つ別棟の側近が発砲したので米軍が射殺。相手側からの発砲はこの1回だけ。3階立ての母屋の1階で銃を持っていない側近を射殺。階段で銃を持っていないビンラディン容疑者の息子を射殺。3階で妻や子どもらといた武器を持たないビンラディン容疑者の胸と額を撃って射殺他に女性一人を射殺

 今回のアメリカによるビンラディンの殺害は、国家による個人の暗殺である。国連の旧ユーゴスラビア戦犯法廷で判事を務めた法政大学の多谷千香子教授は「米国にとって危険人物なら、誰でも殺して良いことになってしまう」と今回の米国の行為を批判している。これが正当な評価であろう。それを正義と強弁するアメリカのずうずうしさ。フセインや北朝鮮親子とどこが違うというのか。

 今回の作戦上のビンラディン容疑者の標的名は、白人に抵抗したアメリカ先住民の戦士にちなんで「ジェロニモ」とされたという。要するに白人によるキリスト教国家であるアメリカ至上主義がこの命名に典型的に象徴されているのである。

 ビンラディンを殺すことが正義と言うなら、その仕返しをすることも正義なのである。単純明快である。この憎しみの根を絶つには、アメリカが自分達のやってきたことをまず反省すべきである。

(2011年5月8日 記)

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